Stripeのtrialとは?無料期間の基本理解
trial機能の仕組みと動作
Stripeの「trial(トライアル)」は、サブスクリプションの初回請求日を後ろ倒しにする仕組みです。ユーザー側から見ると「〇日間の無料期間」として認識されますが、Stripe内部では「サブスクは即時作成されるが、請求は一定期間保留されている」という状態になります。つまり、無料体験の登録と課金の開始が別々に管理されている、というわけです。
実際には、価格(Price)に trial_period_days を設定するか、サブスク作成時にAPIで指定します。これにより、例として「14日間の無料期間を提供する」ような一般的なサービスモデルが簡単に実現できます。無料期間中でも顧客の支払い方法はすでに登録済みのため、trial終了日になると自動で有料課金へ移行します。
初心者の方は「trialはサブスクの開始日ではなく、請求の開始日を遅らせる仕組み」と理解しておくと、その後の操作がぐっとわかりやすくなります。また、この仕組みによって「無料期間が終わる前にキャンセルすれば課金されない」という一般的なルールも実現できます。
無料期間が向いているビジネス・向かないケース
trialは、特にオンラインサービスや継続利用が前提のビジネスに向いています。例としては、会員制コンテンツ、SaaSツール、オンライン講座、コミュニティ運営などです。ユーザーが機能や内容を確認したうえで有料継続しやすく、事業者側も自動課金で収益を安定化できます。
一方で、「単発の商品販売」や「無料期間中でも提供コストが大きくなるサービス」には不向きです。無料期間を長く設定しすぎると、体験目的のユーザーが増え、サポートコストばかりが膨らむこともあります。また、無料期間があることで逆に「本当に価値があるのか」慎重に見られる場面もあるため、ビジネス特性に合わせて慎重に判断することが大切です。
適切に設計されたトライアルは申し込み率を高める強力な武器になりますが、目的や導線の整理が不十分だと「無料だけ使われやすい」状態にもなります。次の章では、そうしたリスクを防ぐためにも重要な「事前に決めるべき条件」を整理していきます。
trial付きサブスクを作る前に決めること
無料期間の長さと提供条件の設計
ダッシュボード操作に入る前に、まずはトライアルの設計を紙やメモで整理しておくと後の設定がスムーズになります。特に重要なのは以下の3点です。
- 無料期間の日数(7日/14日/30日など)
- 無料期間の対象者(初回のみか、複数回利用可か)
- 支払い方法登録のタイミング(最初からカード必須か、後から登録させるか)
一般的には「最初にカード登録 → そのまま自動で有料に切り替わる」形式がもっとも運用負荷が少なく、Stripeとの相性も良いです。ただし「まずはメールアドレスだけで試したい」利用者を増やしたい場合は、カード登録を後に回す方法もあります。この場合は、Stripe単独では自動課金までつながらないため、別の登録導線を用意する必要がある点に注意が必要です。
無料期間が長すぎるとコストが増え、短すぎると体験価値が伝わりにくくなります。あなたのサービスが「どれくらい使えば価値が伝わるか」を基準に日数を決めると失敗しにくいです。なお、トライアル条件は利用規約や申込ページにも必ず明記しておきましょう。
請求開始日・キャンセル期限などルール作り
trialの運用で最もトラブルが起きやすいのが「いつ課金されるのかがわかりにくかった」というケースです。Stripeはtrial終了日になると自動で請求を行います。そのため、次のポイントを事前に決め、ユーザーにも明示することが重要です。
- 無料期間の終了日はいつか
- 何日目に課金が開始されるか
- いつまでにキャンセルすれば課金されないか
- キャンセル方法(Billingポータル/マイページ/問い合わせなど)
例としては「14日間無料、15日目から月額3,000円。無料期間中はマイページからいつでもキャンセルできます。終了日の前日までにキャンセルすれば請求は発生しません」といった表現がシンプルで誤解がありません。
また、運用の視点では「ユーザーが自分でキャンセルできる導線」が特に重要です。後ほど解説するBillingポータルを活用すれば、解約操作を自動化でき、問い合わせ削減にもつながります。事前のルール作りが明確であれば、trial導入後のトラブルは大幅に減らせます。
Stripeダッシュボードでのtrial設定手順
プロダクトとPrice(料金)を作成する流れ
ここからは、実際にStripeダッシュボードを操作して「トライアル付きサブスク」を作る手順を見ていきます。大きな流れとしては、 「プロダクト(商品)を作る → 料金(Price)を作る → 必要に応じてトライアル期間を紐づける」という3ステップです。最初に、Stripeダッシュボードへログインし、左メニューの「商品」または「Products」を開きます。
画面右上の「+ 商品を追加」ボタンから、新しいサービス用のプロダクトを作成します。ここでは「サービス名」「説明」「表示価格の通貨」などを入力するだけでOKです。プロダクトはあくまで「何を売っているか」の情報なので、金額や請求間隔はこの後に作るPriceのほうで管理します。
プロダクトを保存すると、その詳細画面から「価格を追加」や「Add price」といったボタンが表示されます。ここで、
- 料金タイプ:定期課金(サブスクリプション)
- 請求間隔:毎月/毎年 など
- 金額:例)月額3,000円
といった項目を設定し、保存します。この時点で「通常の有料サブスク用Price」が1つできあがった状態です。後で比較しやすいように、「通常」「trial付き」など、名前をわかりやすくしておくと運用が楽になります。
trial期間つきPriceを設定する(ダッシュボード/API)
次に、「無料期間つきのサブスク」を作るためのPriceを用意します。もっともわかりやすい方法は、先ほど作成した通常Priceを参考に、「trial付き」という名前で別のPriceを追加するやり方です。ダッシュボード上で「新しい価格を追加」から、同じ金額・同じ請求間隔でPriceを作成し、内部的に「trial付きプラン」として使い分けます。
一部の画面では trial_period_days を直接入力できない場合もあるため、その場合は開発者に依頼して「サブスクリプション作成時にtrialを付与する」実装をしてもらう形になります。簡略化したイメージは以下のとおりです。
$subscription = \Stripe\Subscription::create([
'customer' => $customerId,
'items' => [[
'price' => 'price_trial_xxx',
]],
'trial_period_days' => 14, // ここで無料期間の日数を指定
]);
コードを書かずに導入したい場合は、「Checkoutの設定でtrialを有効にする」方法が現実的です。Stripeの仕様や画面構成は随時アップデートされるため、具体的なボタン名・設定項目は最新の公式ドキュメントやヘルプセンターも合わせて確認してください。技術的な細部よりも、「どのPriceがtrial付きか」「無料期間は何日か」を運用メモにまとめておくことが、後から混乱しないコツです。
CheckoutとBillingポータルを使った運用パターン
Checkoutでtrial付きサブスクを受け付ける
Stripe Checkoutは、Stripe側が用意した決済ページをそのまま使える仕組みです。自分でフォームをゼロから作らなくていいため、ITに不慣れな方でも比較的導入しやすいのが特徴です。トライアル付きサブスクも、基本的には「trial付きPriceを指定してCheckoutセッションを作成する」という流れになります。
開発者がいる場合のシンプルなイメージは次のとおりです。
// 例:Stripe Checkout セッション作成(PHPイメージ)
$session = \Stripe\Checkout\Session::create([
'mode' => 'subscription',
'line_items' => [[
'price' => 'price_trial_xxx', // trial付きPriceを指定
'quantity' => 1,
]],
'success_url' => 'https://example.com/success',
'cancel_url' => 'https://example.com/cancel',
]);
このように設定すると、ユーザーはCheckout画面でカード情報を入力し、完了と同時に「trial付きサブスクリプション」が自動で作成されます。無料期間中は請求されず、trial終了日に初回請求が走ります。申込ページには、 「〇日間無料」「〇日目から月額◯円が自動課金」「キャンセルはマイページから可能」 といった重要ポイントを必ず書き、誤解を防ぐことが大切です。なお、料金や税率などの扱いは国や時期によって変わる可能性があるため、最新情報はStripe公式サイトや税務専門家にも確認してください。
Billingポータルでユーザーが自分で解約できる導線を作る
トライアル運用で問題になりやすいのが、「解約方法がわかりづらい」「問い合わせしないとやめられない」といった不満です。これを避けるために役立つのが、Stripeの「顧客ポータル(Billingポータル)」です。これを有効化すると、ユーザー自身がサブスクの解約や支払い方法変更を行える専用ページを用意できます。
ダッシュボードの「Billing」設定から顧客ポータルをオンにし、「ユーザーに許可する操作」をチェックボックスで選びます。代表的には、
- サブスクリプションのキャンセル
- プラン変更(アップグレード/ダウングレード)
- 支払い方法の変更・追加
といった項目です。その後、アプリ側や会員サイト側で「マイページ」などを用意し、各ユーザー専用のポータルURLへリンクさせます。これにより、「マイページ → 契約内容の確認/解約」の動線がシンプルになり、問い合わせ対応の手間も減らせます。
利用規約や申込ページには、「解約はマイページ内の『契約の管理』からいつでも可能です」のように、具体的な場所も書いておくと親切です。トライアルを導入する際は、「申し込みのしやすさ」と同じくらい「やめやすさ」もセットで設計しておくと、信頼感の高いサービス運営につながります。
テスト環境での動作確認と注意点
テストカードを使った主要シナリオの確認
本番公開前に、Stripeのテストモードを使って動作確認を行うことは必須です。Stripeはテスト用のカード番号を多数提供しており、実際の課金は一切発生しません。特にtrial付きサブスクでは、無料期間から有料移行までの一連の流れが正しく動くかを確認することが重要です。
最低限チェックしておきたい典型的なシナリオは次の3つです。
- ① 通常のカード番号で trial に登録 → 無料期間後に自動請求が実行されるか
- ② trial 期間中にキャンセル → その後に請求が走らないか
- ③ カードエラー(残高不足など)の挙動 → エラー後に再請求されるか
これらのシナリオを試すことで、「本当に自動で課金されるのか」「キャンセルが正しく反映されるのか」など、ユーザー視点での不安を取り除けます。Stripeのテストモードはメール通知も模擬的に送信されるため、ユーザーにどんなメールが届くのかも必ず確認しておきましょう。
また、複数のプランや複雑な導線を扱う場合は、登録→キャンセル→再登録といった「境界ケース」もチェックしておくと安心です。trial関連の設定は小さな違いで挙動が変わるため、事前にしっかりテストしておくことでトラブルを防げます。
トライアル終了後の請求とメール通知のチェック
Stripeでは、trial終了日に自動的に初回請求が発生します。ここで重要なのが、「trial終了のタイミング」「メール通知のタイミング」「請求失敗時の再試行(リトライ)ルール」の3点です。これらはStripeのBilling設定で細かくカスタマイズできるため、本番前に設定の意図が正しく反映されているかを確認しておきましょう。
特に注意したいのは、請求が失敗した場合の挙動です。Stripeには「スマートリトライ」という仕組みがあり、決済失敗時に何度か自動で再試行してくれます。再試行の回数や間隔は設定によって異なるため、あなたのサービスの方針に合わせて調整すると良いでしょう。
また、trial終了のメールや請求書メールはユーザーとの重要な接点です。メール文面はStripeが自動生成しますが、どのタイミングでどんな内容のメールが送られるかを事前に把握しておけば、問い合わせ対応にも役立ちます。必要に応じて、申込ページやヘルプに「どんなメールが届くか」を追記しておくと、ユーザーの安心につながります。
トライアル運用で失敗しないためのTips
無料だけ使われないための対策
trialを導入すると、一定数のユーザーは「無料期間だけ利用して解約する」という行動をとります。これは避けられない部分ですが、運用次第で最小限に抑えることができます。たとえば、無料期間中にすぐ価値を実感してもらうために、初回案内メールやオンボーディング(初期導入サポート)を手厚くする方法があります。
また、無料期間を長くしすぎると「いつでも使える」と思われて逆に利用されないケースも発生します。サービスの特性に応じて「価値を感じるまでに必要な日数」を基準に設定すると、無料だけのユーザーを減らしつつ有料化率を高められます。さらに、trial期間の途中で「まもなく終了のお知らせ」メールを送ることで、有料化の自然な導線を作ることも有効です。
適切な無料期間の決め方と見直し方法
無料期間を何日間にするかは、サービスの種類やユーザー行動によって大きく変わります。一般的には「7〜14日」がもっともバランスが良いとされますが、体験価値がすぐに伝わるサービスなら7日、じっくり使って判断する必要があるサービスなら14〜30日など、根拠を持って決めることが重要です。
特におすすめなのは「小さく始めて見直す」という運用スタイルです。最初は短めのtrialでリリースし、一定期間運用した後、有料移行率や継続率、問い合わせ件数などのデータを見ながら無料期間を延長・短縮します。StripeはPriceを複数用意できるため、A/Bテストのように無料期間の異なるプランを分けて運用することも可能です。
trialはあくまで「価値をスムーズに体験してもらうための仕組み」です。無料のインパクトだけに頼るのではなく、サービス価値をどう届けるかという視点を大切にすると、トラブルの少ない、健全なサブスク運営ができるようになります。

コメント